終戦記念日の天皇陛下の「おことば」。
その中にこんな一節があった。「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、
深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、
戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意
を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」これは「おことば」中の焦点と申し上げても、敢えて言い過ぎではないだろう。
この一節のうち、上皇陛下のご在位中に変更された箇所がいくつかある。
まず即位の礼を挙げられた翌年の平成3年。
それまでは「ここに全国民とともに、我が国の一層の発展と世界の平和を祈り、
戦陣に散り、戦禍にたおれた人々に対し、心から追悼の意を表します」
とあったのを、大きく「追悼」と「祈り」の順序を入れ換えられた。
明らかに「祈り」に重点を移されたと拝察できる。
これは当然、終戦以来の歳月の流れも勘案されての、慎重なお考えによる
ものだろう。次に「世界の平和」を先にされ、「我が国の一層の発展」が後ろに回された。
これも軽視できない変更だ。終戦50年に当たる平成7年からは、次の一節
が加えられた。「歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」と。
そこに、終戦の詔書で「万世(ばんせい)の為に太平を開かむと欲す」
と仰せになった、昭和天皇のお気持ちを深く受け止められた、上皇陛下の
明確なご意思を拝すことができる。特に「切に願い」というご表現の“強さ”に、心をとどめるべきだ。
又、前年から「慰霊の旅」を始められた事実(平成6年に硫黄島へ)も
思い合わせる必要がある。
そして終戦70年を迎えた平成27年。昭和天皇ご自身がかねて率直な
ご表明を願いながら果たせなかった、「反省」というご表現が加えられた。
「さきの大戦に対する深い反省と共に」と。
ちなみに、この年から「歴史を顧み」というご表現は「過去を顧み」
に改めておられる。更に“ご譲位”がはっきりと視野に入った平成30年(上皇陛下が“天皇”として
最後にお迎えになった終戦記念日)。
「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という一節をお加えになった。
父帝・昭和天皇のご生涯をかけた「平和」へのひたむきな祈りを顧みられつつ、
ご自身の年来の思いもそこにお籠めになった、と拝すべきだろう。同年の、天皇としての最後のお誕生日に際しての記者会見で、
「平成」という時代が、近代以降“初めて”戦争の無かった時代として
終わろうとしている事に、深い「安堵」のお気持ちをお述べになられた
お姿を思い起こす。天皇陛下が令和で最初の終戦記念日に丁寧にお述べ下さった「おことば」は、
そうした昭和天皇から上皇陛下に引き継がれた「祈り」を、揺るぎなく
受け継がれたものだった。有難い。【高森明勅公式サイト】
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