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高森明勅
2019.8.23 06:00皇室

終戦記念日の「おことば」の深さ

終戦記念日の天皇陛下の「おことば」。
その中にこんな一節があった。

「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、
深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、
戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意
を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」

これは「おことば」中の焦点と申し上げても、敢えて言い過ぎではないだろう。
この一節のうち、上皇陛下のご在位中に変更された箇所がいくつかある。
まず即位の礼を挙げられた翌年の平成3年。
それまでは「ここに全国民とともに、我が国の一層の発展と世界の平和を祈り、
戦陣に散り、戦禍にたおれた人々に対し、心から追悼の意を表します」
とあったのを、大きく「追悼」と「祈り」の順序を入れ換えられた。
明らかに「祈り」に重点を移されたと拝察できる。
これは当然、終戦以来の歳月の流れも勘案されての、慎重なお考えによる
ものだろう。

次に「世界の平和」を先にされ、「我が国の一層の発展」が後ろに回された。
これも軽視できない変更だ。終戦50年に当たる平成7年からは、次の一節
が加えられた。

「歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」と。

そこに、終戦の詔書で「万世(ばんせい)の為に太平を開かむと欲す」
と仰せになった、昭和天皇のお気持ちを深く受け止められた、上皇陛下の
明確なご意思を拝すことができる。

特に「切に願い」というご表現の“強さ”に、心をとどめるべきだ。
又、前年から「慰霊の旅」を始められた事実(平成6年に硫黄島へ)も
思い合わせる必要がある。
そして終戦70年を迎えた平成27年。昭和天皇ご自身がかねて率直な
ご表明を願いながら果たせなかった、「反省」というご表現が加えられた。
「さきの大戦に対する深い反省と共に」と。
ちなみに、この年から「歴史を顧み」というご表現は「過去を顧み」
に改めておられる。

更に“ご譲位”がはっきりと視野に入った平成30年(上皇陛下が“天皇”として
最後にお迎えになった終戦記念日)。
「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という一節をお加えになった。
父帝・昭和天皇のご生涯をかけた「平和」へのひたむきな祈りを顧みられつつ、
ご自身の年来の思いもそこにお籠めになった、と拝すべきだろう。

同年の、天皇としての最後のお誕生日に際しての記者会見で、
「平成」という時代が、近代以降“初めて”戦争の無かった時代として
終わろうとしている事に、深い「安堵」のお気持ちをお述べになられた
お姿を思い起こす。

天皇陛下が令和で最初の終戦記念日に丁寧にお述べ下さった「おことば」は、
そうした昭和天皇から上皇陛下に引き継がれた「祈り」を、揺るぎなく
受け継がれたものだった。有難い。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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